谷口ジロー 『遥かな町へ』

  • 2009/03/04(水) 23:58:00

2009.2.21



「文化庁メディア芸術祭 優秀賞」
出張旅行の帰途、主人公はなぜか故郷への列車に乗っていた。変貌した町の母の墓に詣でた一瞬、彼は中年の意識や知識、能力のまま、中学生だった夏に戻ってしまう。時を超えた旅路で彼が知った父の重荷、母の涙。力量十分の作者の、マンガならではのファンタジー。誠実で細やかな、感動的変形タイムトラベルである。



谷口ジローさんの作品で一番好きなのがこの『遥かな町へ』。

初めて読んだのはこの作品が出版された直後だったから今からちょうど10年ほど前。

48歳のオヤジが14歳の体を通して過去を追体験していく過程は、とても甘美で涙腺が緩みっ放しだった。(苦笑)

まだまだ若かった両親と。
妹と。
祖母と。
友達と。
そして憧れの女子。
もうけっして会えない懐かしい人たち。

でももちろん甘美なままで終わる筈も無く、大人になったからだこそ変えられなかった過去のある出来事が苦味を感じさせてまた良い。

そして再び襲ってくる郷愁がなんともいえない余韻を残すラストがまた素晴らしい。

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主人公と同じ年齢になって(汗)読み返してみたわけだけど、より味わいが深まったように思う。
30数年前の中学時代というのが本当に”遥かな時”のことになってしまったと実感出来てしまうからなんだろうけど。

おかげでまたしても涙腺が緩みっ放しになってしまった。(笑)


また改めて感じたのは谷口ジローさんの”画”の凄さ。
多分生半可な人では陳腐なものにしかならない題材だけど、行間の深みを感じさせるような画力はやっぱり圧倒的だった。
この頃が『坊ちゃんの時代』『犬を飼う』から続くひとつの到達点だったんだろう。

でもここには小難しい表現や屁理屈も昭和へのいやらしい郷愁も何も無い。
あるのは読者自身と重なるただ懐かしい思い出と明日へのちょっとした希望。
だからこそ、そろそろくたびれかけてきた全ての40代のオヤジに読んで欲しいと思う。


もちろん若い人が読んでも全然問題無いと思うけど。(苦笑)

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